虫歯や外傷で歯の神経を抜くか抜かないか、その判断基準をご説明します。
虫歯や外傷で歯質を侵されると、「抜髄」という神経を抜く処置が必要になります。
歯は、神経を抜くと歯の寿命が短くなったり、歯の根に膿袋ができるリスクが生じたり、使用感が変わることもあります。
そのため、歯医者で「神経を抜く」と言われると、大きなショックを受ける人もいらっしゃいます。
ここでは、歯医者が「神経を抜く」と判断するための判断基準について、詳しくご説明します。
むし歯が大きくなり、神経の近くもしくは神経に達すると「抜髄」という処置が必要になります。
抜髄とは、歯髄という神経を取り除く処置です。歯の中の「歯髄」というものは、歯髄幹細胞での細胞治療1)や歯髄バンクなど今非常に重要な組織として注目されている組織なのです。即ち、そんな大切な歯髄を取り除く処置が、根管治療ということになります。
歯の治療や健康については、近年厚生労働省が運営する「eヘルスケアネット」という情報サイトが非常に親切な情報を発信してくれています。ここでは、eヘルケアネット「歯の神経の治療(根管治療)」の記事を元に、わかりやすく解説していきます。
根管治療は、歯の神経と血液を取り除き、いわゆる失活状態にする治療です。神経を取り、歯髄生活反応を失った歯のことを失活歯と言います。
失活歯は血液の循環があった生活反応をしていた歯に比べもろくなってしまい、むし歯や破折のリスクが高くなってしまい、歯としての寿命は短くなってしまいます。
また、神経をとったからと言って痛みを感じなくなるわけではなく、一度神経を取った後でも再び根管が感染し、再治療が必要になることもあります。(※1)意外に気にされる方も少ない再発リスク、しかし、これは決して稀なケースではなく、低くない確率で起こってしまう疾患なのです。
※1)歯の中には「歯髄(しずい)」と呼ばれる神経や血管を含む組織があります。むし歯や外傷によって歯髄が感染したり壊死(えし)したりしてしまうと、歯髄を取り除く根管治療が必要になります。さらに一度根管治療を行ったにもかかわらず、再び根管が感染してしまったり感染が残っていたりする場合は、再根管治療が必要となります。
図1は、東京医科歯科大学が調査したもので根管治療したあとに再び根管内で感染がおこりレントゲン上に現れたものの割合です。
半分以上が、本来再治療が必要となっている状態にあることがわかります。平成29年度患者調査では、全体の約18%の方が根管治療を受けています。
保険診療請求回数の全国集計が政府統計の総合窓口(e-Stat)で公表されているデータから推計すると「2009年の1年間に行われた永久歯の抜髄・感染根管治療症例の総数は1,350万例以上にのぼる。」とされています。そのうちの半分以上が再治療が必要になるということは、おおよそ675万例前後の歯が、根管の再治療が必要になるということです。
もしご自身が通う歯科医院にて、「歯の神経の治療を受ける必要がある」と言われた場合、選択肢があるのならば再治療のリスクが低い方を選びたいですね。
むし歯が進行し歯髄にまで達。歯髄炎には抜髄を回避できる「可逆性歯髄炎」と、抜髄が必要な「不可逆性歯髄炎」があります。熱い・冷たいものを口にするとしみたり痛みを感じたり、常に鈍痛を感じることもあります。
歯髄炎を放置したり、外傷などが原因で起こる病態です。症状としては、温度刺激による痛みがなくなり、これまでしみていたむし歯がしみなくなったり、歯の変色などがあります。
歯の根の先に膿がたまり、歯槽骨にまで影響を及ぼした状態です。膿は歯槽骨の内部に溜まるため、骨が溶けていくこともあります。激しい痛みを伴うことが多く、歯肉や頬・顎が腫れることもあります。
図2は、患者様が痛みや違和感を感じて歯科に来られてから、臨床診断名(病名)を確定するためのフローチャートです。この中で、おそらく抜髄処置を免れる事ができる病名は、赤い背景の「正常歯髄・歯髄充血」の2つだけということになります。
歯医者に神経を残す可能性があると言われたならば、それは奇跡に近いと思います。
実際に神経を残す方法があったらなら、決めるのは患者さん自身ですが、飛びつきたくなる気持ちもわかるほど、狭き門であるとも言えるでしょう。
※図2)歯髄の生死と痛みの症状から臨床診断名をうるフローチャートより引用
eヘルスケアネットにもありますが、樋浦健二氏らによる新潟市における高齢者1705名を対象とした調査では、現在歯(今残っている歯)のうち36.9%が神経を取った歯で、そのうち35.6%に歯の根が感染し、膿がたまった「根尖病巣」が見つかったとあります。
これはそれだけ再発リスクが高いということで、実に歯の根の治療の3歯に1歯以上は再発しているということになります。
本文には同時に、再発リスクを下げるためのヒントも描いてくれています。
歯髄の状態 | 根充の状態+根尖病巣の状態 | 対象歯数 | 割合 |
---|---|---|---|
有髄歯 | 根充なし+根尖病巣なし | 1,076 | 63.1 |
無髄歯 | 根充なし+根尖病巣あり | 58 | 3.4 |
根充あり+根尖病巣なし | 405 | 2.38 | |
根充あり十根尖病巣あり | 166 | 9.7 |
現在歯の根尖部の状態
根管治療で大切なことは、根管内にいる細菌をできるだけ消毒すること、新たに根管内に細菌を侵入させないことです。そのためには根の治療をする際に、ラバーダムと呼ばれるゴムのマスクを歯につけて治療する必要があります。ラバーダムをした状態で、根管の拡大・清掃・洗浄を行い、ガッタパーチャと呼ばれる材料で根管内をしっかりと封鎖し、細菌が再び侵入しないようにします。このような治療法を根管治療の無菌的治療法と呼ぶことがあります。
これはつまり、歯の神経の治療は、痛みを取ることが目的なのではなく、細菌を取り除くことといっても良いかもしれません。
むし歯は感染性の病気です。つまり感染源(細菌)を取り除くことで感染はなくなるといことです。つまり治療で大切なことは「ラバーダム」ということになります。
以下は世界的有名な歯科医師が、世界大会の場で歯科医師に向けて述べた言葉です。
国際歯内療法連盟(IFEA: International Federation of Endodontic Associations) の主催による第 8 回歯内療法世界会議(WEC:World EndodonticCongress)において、S. Kim 教授(米国ぺンシルハバニア大学)は外科的歯内療法― エビデンスに基づくアプローチ―と題する基調講演を1時間半にわたって熱演した。同教授はその中で1990〜2010 年の 20 年間において歯内療法領域で最も顕著な進歩があった機器・材料を8つ掲げた.それらは多少の偏りはあるかもしれないがおおむね異存のないところであろう。新しい機 器・材料に精通することは、歯内療法を志す者にとって必要不可欠である.しかし,同時にわれわれ歯科医師は,歯内療法の基盤となる事項を忘れてはならない。ややもすればわれわれは安易に万能薬やスーパーテクニックを求めがちであるがまず歯内療法の基本的事項を遵守すべきてである。たとえば無菌的処置原則を守らない根管拡大・形成は,単に感染経路を拡大しているに過ぎないと言っても過言ではない。
簡単にいうと、ラバーダムという道具を使用し無菌的に処置することが最も重要であると訴えたという内容です。これはあくまで雑言ですが、根管治療を「歯内療法(治療)」と言いますが、ラバーダムをしない治療は「歯内治療」でななく、「しない治療=治療を行わない」の方が良いとまで言われることがあるそうです。
この表は、1990年にSjogren U氏らによって研究された、根管治療の結果に影響を与える可能性のある様々な要因を治療後8〜10年の356人の患者で評価したものです(※2)。
この表の研究はスウェーデンの学生が専門医の指導の下で行った治療の成功率です。ですから、これがそのまま日本における根管治療の結果とイコールとはならないとは思いますので多少の誤差があるとしても、【3】と【5】のように病変のある根管治療は成功率が低く、再発した歯の再治療【5】は最初の根管治療【3】に比べて、成功率が低くなることがわかります。
この表からわかることは、病変のある歯「【3】、【5】」の根管治療の成功率は低くなるということです。さらに病変のある歯だけを見てみると、再根管治療の歯【5】の成功率は、初めて根管治療を行った歯【3】の成功率よりも低くなります。
この研究はスウェーデンで行われ、学生が専門医の指導の下で治療したものなので、そのまま日本の根管治療に当てはめることはできませんが、無菌的治療法を行えば根尖病変のある再根管治療以外の根管治療の成功率はかなり高いことが分かります。
成功 | 総数 | 成功率 | ||
---|---|---|---|---|
【1】 | 健康歯髄 | 69 | 72 | 96% |
【2】 | 歯髄炎 | 188 | 195 | 96% |
【2】 | 歯髄壊死 | 102 | 102 | 100% |
【3】 | 根尖病変のある歯髄壊死 | 176 | 204 | 84% |
【4】 | 再根管治療 | 169 | 173 | 98% |
【5】 | 再根管治療 | 58 | 94 | 64% |
不明 | 9 | 9 | ||
総数 | 771 | 849 | 91% |
※2)The rate of success for cases with vital or nonvital pulps but having no periapical radiolucency exceeded 96%, whereas only 86% of the cases with pulp necrosis and periapical radiolucency showed apical healing. The possibility of instrumenting the root canal to its full length and the level of root filling significantly affected the outcome of treatment. Of all of the periapical lesions present on previously root-filled teeth, only 62% healed after retreatment.
写真の矢印の部分は、肉眼でラバーダム防湿もせずに行われたことによって取り残された小さな根管です。根管内の状態も清潔とは言えません。
これらを見ると「根管治療は再発率の高い治療」と思ってしまうかもしれません。
しかし、どんな病気でもそうですが、治療法は一つではありません。
道具を変えたり、薬を変えたり、アプローチの方法をかえることで異なる結果を得られることもあります。
例えば根管治療であれば、以下のような選択肢もあります。
拡大された明るい視野を確保する歯科用顕微鏡。目視での根管の確認による正確性の向上や、見落としリスクの軽減などが期待できます。
唾液等の水分から治療中の歯を守る薄いゴム製のシート。口腔内の細菌による根管内への感染を防ぎ、治療の成功率を向上させます。
ステンレス製のファイルと違い、弾力性があり本来の神経管の形を崩さず3次元的根管形成可能な根の治療器具。
こ露髄部への覆髄、治療、歯髄保護使用される歯科用セメント。親和性が高く、条件が良ければ抜髄を回避することが可能な場合もある。
どんな道具を使って、どんな治療をするかは、自身と歯科医師によって委ねられます。
ときには自由診療になることがあったとして、自身の歯や歯の根にどれだけの価値を感じるかによって、その選択をして下さい。
歯も歯髄も一度失ってしまえば二度と戻ることはありません。
まずは歯髄を失わないようむし歯の予防をしっかりすることが大切ですが、万が一歯の治療が必要になったときは、しっかり歯科医師と相談しながら治療を選ぶことをお進めします。
三宮アップル歯科
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