むし歯が進行し、歯髄にまで達すると歯の神経を取る処置を行わなければなりません。歯の神経を取ると歯は抵抗力を失い、その結果約50%程度の確率で根っこの先端に膿袋ができる場合があります。 歯の根に膿袋ができると最初は小さな疼痛から始まりますが、徐々に痛みは大きくなり、最終的には我慢できないくらいの激しい痛みに襲われることもあります。
そうならないために、最初に歯の根を治療する際には「精密根管治療」をご提案することがあります。精密根管治療は、一般的な歯の根の治療に比べより精密で再発や膿むリスクを抑えるための治療です。歯の根の治療はしっかりとした治療の手順に則った治療を行わなければ、完治する確率は高くありません。
東京医科歯科むし歯科の文献では、治療した歯が根の先で膿を作ってしまう確率は約50%と言われています。(表1)
また、一度治療した歯が再度痛みが出たり膿が再発してしまった場合、再治療が必要となりますが、その際の治療成功率も約50%と言われています。手をつけなければならない治療の約半分が治らないという成功率の低い治療となっているのが現状です。
参考文献※1)
歯の根の治療には2つの役割があります。
1.の対処療法は保険診療でも可能な歯の根の治療です。生活に問題がでないようにする最低限の処置ということです。ただしリスクとして、前述したように約半数の方に膿袋ができ、最終的には再治療が必要になってくるリスクが高いことと、銀歯を使用することによる二次的な虫歯(二次カリエス)のリスクも高くなります。
2.の原因治療については、精密根管治療が適切であると考えます。保険の治療が悪いわけではありません。ただ、保険の治療にはできることが限られているというだけです。もうこれ以上悪くしないようにしたいのであれば、精密根管治療で再発や炎症のリスクを下げることが望まれます。
通常の治療と歯内療法には道具・時間・費用の違いが生まれます。保険の治療の場合、時間やコストの制約から肉眼で行われる場合が多くなってしまいます。しかし、歯の神経を取る抜髄という処置は小さな根管を探しだし、その中を器具を使ってキレイにするという非常に緻密な治療となります。それを肉眼で行う場合、どうしても小さな根管や感染部位の見落としが懸念されてしまいます。
口の中には常在菌がたくさんいるため、その空間で治療することで治療中に再感染してしまうこともよくある事です。ある有名な論文があります。無菌のラットと普通のラットの歯を削り、わざと歯に穴を作ります。そのまま約1ヶ月経過を観察していきます。そうすると、無菌のラットでは神経は健康なまま残っていましたが、普通のラットでは虫歯が進んでしまい、その後歯の神経が死んでしまい、根っこに膿ができるという結果になりました。つまり、無菌の状態では根っこに膿ができないと分かったのです。(※2)
精密根管治療では、マイクロスコープという歯科用顕微鏡を使い、肉眼では見えない根管も約25倍に拡大することにより、しっかり目で確認しながら治療をすることが可能です。
参考文献※2)
日本の一般的な歯内療法
精密根管治療
肉眼での治療
保険診療の根の治療は肉眼で行うことが多いため、小さな根管を見落とすことがあり、それが再治療の原因になることがあります。
マイクロスコープによる治療
精密歯内療法の場合マイクロスコープという歯科用顕微鏡を使うため、小さな根管も見逃すことなく除去することが可能です。
一般的な歯内療法 | 精密根管治療 | |
---|---|---|
回数 | 5〜15回 | 3〜5回 |
歯を削る量 | 多い | (一般的な歯内療法に比べ)少ない |
補綴(被せ物) | 銀歯 | セラミック(天然歯に近い白色) |
費用(治療+補綴) | 1万〜1万5,000円 ※3割負担の目安(治療回数による) |
5万5,000円〜11万円(税込)+3,300円(税込)×回数 ※前歯~小臼歯は5万5,000円、小臼歯~大臼歯は11万円 ※治療回数による |
通常の治療では赤丸で囲んだような小さな根管は見落とされることも少なくありません。これらの根管の清掃や感染部位をしっかり取り除くことが、再発や根管内での感染を防ぐ唯一の手段です。
通常の歯内療法、しかも肉眼で治療するのであれば、どれだけ経験のある歯科医師がやったとしても再感染・再発のリスクは高いと言わざるを得ません。写真はそんな対症療法の結果、再感染し、歯の内部にまでう蝕に蝕まれたため抜歯となったケースです。
こうなるリスクを大幅に下げるには、マイクロスコープやラバーダムを使った根管治療を行っていることが前提条件となります。対症療法は「痛みを抑えること」に特化した治療です。再感染のリスクを忘れてはいけません。
三宮アップル歯科
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